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重症新生児仮死

患者年齢:0歳0カ月

 

 

家族歴、妊娠・分娩歴、既往歴:母は0妊0産。パニック障害の既往あり。

 

 

診断名:重症新生児仮死、低酸素性虚血性脳症、多嚢胞性脳軟化症

 

 

症例要約

 

(主訴)重症新生児仮死、筋緊張亢進 

 

(現病歴) 母はパニック障害のため分娩前日までの1週間、パキシル20mg/day及びユーパン0.25mg/day内服していた。2007/6/20、回旋異常のため緊急帝王切開で出生。在胎37週4日、体重2362g。Ap 1/4。自発呼吸なく、すぐに気管内挿管。四肢の筋緊張亢進、瞳孔散大。出生時pH 7.28、BE -8.9とアシドーシス軽度。同日当院へ救急搬送となった。

 

(入院時診察所見)(挿管下)自発呼吸なし。皮膚色良好で、胎便汚染は目立たず。痛み刺激に反応なく瞳孔は左右とも散大、対光反射認めず。四肢はややこわばりある感じ。大泉門平坦。腹部は平坦・軟で腫瘤触知せず。

 

(検査結果)静脈血ガス分析:pH 7.28 pCO2 38.5 BE -8.3 Na 134.2 K 4.42 Cl 98 Ca 1.27 BS 99、Lac 88 、NH3 43末梢血・生化学:TP 5.6 Alb 3.1 T-Bil 1.70 D-Bil 0.07 AST 73 ALT 13 LDH 672 CK 647 Cre 0.78 BUN 7.8 WBC 27000 Hb 14.0 Plt 24.4万 超音波検査:心臓は奇形なし、収縮良好。頭部は出血なし、脳室拡大なし Xp:肺野はやや含気不良も、透過性は良好。異常腸管ガス像なし。

 

(鑑別診断)TORCH感染症、先天性脳奇形、染色体異常

 

(経過)入院後SIMV管理とし、痙攣予防目的にフェノバール座薬(6/20)、脳浮腫対策としてグリセオール(〜6/27)、二次性脳傷害予防目的にマグネゾールを使用(〜6/24)。臨床症状(自発呼吸なし、痛み刺激に反応なし、瞳孔散大など重症度が高い)と検査所見との乖離があり、単なる新生児仮死とは明らかに異なる印象であった。父へは重度の脳障害が想定されること、母の服用していた向精神薬が関与した可能性もあることをお話した。6/21(日齢1)頭部MRI施行し低酸素性虚血性脳症の所見。脳波は全般性平坦波。パキシルについては、児の出生時血中濃度は感度未満。経管栄養は日齢5から開始。日齢18に持続点滴中止。7/12(日齢22)2度目の頭部MRI施行。両側基底核、脳幹の萎縮、両側大脳半球の広範囲の多嚢胞性脳軟化症の所見。この時点で、両親へは今後の回復の見込みが極めて乏しく人工呼吸管理を継続していかなければならないこと、また、感染症などを契機に一気に全身状態が悪化する可能性があることなどをお話した。その後も臨床症状に改善なし。10/12左肩の麻痺性脱臼、また10/21には関節拘縮に起因する右大腿骨骨折を認め、整形外科およびリハビリテーション科にて加療を行った。11/7、両親の同意を得て、両親の住居に近い●●病院への転院となった。

 

(患児・家族への指導、考察)パキシルは妊婦にも投与される抗うつ剤(選択的セロトニン再取り込み阻害剤:SSRI)であるが、他のSSRIに比べて有意に新生児適応傷害の報告例が多いことが分かっている。本症例は典型的な新生児仮死とは異なり中枢神経のみが選択的に傷害されており、パキシルが関与した可能性は高いと思われる。今後の症状回復は極めて厳しい状況であるが、面会頻度を増やし、児への愛着形成を促すためにも両親の住居に近い病院へ転院することが児および両親のためにもなると考えた。

 

 

※この症例の思い出

 

 

この症例はかなり衝撃的な症例でしたね。
頭部MRIの所見は、脳実質がスカスカになって、
まるで「蜂の巣」のような所見でした・・・

 

 

この症例を機にパキシルというSSRIについて調べるようになり、
その結果この薬剤が他のSSRIに比べても明らかに新生児への
副作用が大きいことがわかりました。

 

 

ある新生児ドクターは、パキシルを服用していた母体から
出生した新生児を「パキシルベビー」と呼んでいる、
というような話も聞いたことがあります。

 

 

今まで診た症例の中でも衝撃度は一番かもしれません。
それくらい強く印象に残っています。

 

 

記事作成日:2011年2月24日

 

 

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